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「やつは、わつしの土方家業がえらい嫌ひでしてな」と、彼は云つた。
「へえ。――わし達は小倉組の者ですが、ちよつと怪我人ができましたよつて、せんせいに御面倒かけに上つたんですが」
今度はかるく甘えた、羽毛でくすぐるやうな調子があつた。房一はざぶりと水を顔にぶつかけただけで立上つた。
「今日からお隣へ参りましたから、よろしく願います。」
「いや、まあ。――後の分もありますよつて、黙つて預つといて下さい」
喜作の方でも、房一の来るのを認め、
だが、そのとき、この野心の塊かたまりのやうな若い医者に前もつてたゝみこまれていたさまざまな思案が頭をもたげた。この機会をのがしてはならないぞ、さう思ふのといつしよに房一は急に形をあらためた。
「あ、さう云へば」
実際、練吉の滑つこい気持よくふくらんだ頬には、その時ちらりとした微笑の影がさしていた。
「おれはまだ一本立ちの医者といふわけにはいかない」
笹の葉の下から現れたのは頭から尾まで黒々と廻り、全体に円味がつき、所々の鱗が金色に光つていた。
「どうも遅くなりまして――」
「おい、ビールをくれ」と、しやがれた低い声で云ふと、土間の安テーブルの前に腰を下した。