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「さうです、さうです。さつきも少し遠乗りをやりましてね。帰つて来たばかりなんです。どうしてもこの辺は馬ででもないと、用達しが不便でしてね。町へもこれで出かけます」
「はあ、どうも」
盛子のお腹では、もう胎動がはじまつていた。
房一は男の前膝部をたゝいた。脚気でもない。心臓は弱つていた。単音でなく、微弱な重音があるので弁膜症の気味があるとも診られた。呼吸器に異状はなかつた。一応の診察を終ると、房一は患者の顔から、胴体にかけて、熱心に眺めた。皮膚は弛緩して、生気がなかつた。だが、その極端な貧血と一般的な衰弱とは典型的な寄生虫の症状らしいことにさつきから気づいていた。
道平は顎髯を剃り落してしまつていた。
房一はいかにもそれがやり切れない、と云つた風に吐き出すやうに云つた。つゞけて、
と、誰かが大声で叫んだ。
「どうも、済んまへんでした」
と、小谷が云つた。
「ですが、何とも手のつけやうがない」
「あゝ、さうだつた。なあんだ!」
「さう、知つてる、知つてる」
突然はじまつたこの二人の親密な往来を、小谷は苦笑しながら、半ば無関心で眺めた。女といふものは妙なことから仲よくなるものだ、と思つた。が、由子の口から盛子のことを聞くにしたがつて、彼は高間医院について満ざら他人でもないやうな気に自然となつた。